2012年02月09日 北海道新聞朝刊「現代かわら版」より
増える非正規 労組も動く

組合数の2割


待遇改善正職員が共闘

パートや契約社員として働く非正規雇用が年々増加し、道内では労働人口の4割近
くを占めるようになった。低賃金にあえぐだけでなく、1度のミスで職場を辞めな
ければならない状況に追い込まれたり、会社都合で自宅待機を命じられるなど、悪
条件を強いられるケースが散見している。こうした中、労働組合に加盟する非正規
労働者が増えており、労組として処遇改善を要求する動きが強まっている。
                               (上田貴子)
一度のミスで退職「強要」 

「辞めたくなかったけど、辞めざるを得ない雰囲気だった」。郵便事業会社厚別支
店(札幌市厚別区)で、小包配達の期間雇用社員として働いていた50代の男性が悔
しさをにじませた。
 男性は昨年4月から9月まで期間雇用契約を結んだ。男性によると、ミスしたの
は7月末。荷物を一つ、誤った住所に配達した。
 数日後、担当課長らに呼ばれた。「不適切だから配達させられない」「仕事がな
いがどうする」と言われ、誤配のことで顧客からクレームがあったことも聞いた。
男性は翌日、辞表を提出した。
 郵便事業会社北海道支社は北海道新聞の取材に対して、「個別の対応など、現時
点ではコメントできない」としている。
 男性は退職を強要されたとして近く、郵政産業労組の支援を得て、札幌地裁に労
働審判の申し立てを行う。「同じ職場の期間雇用の仲間はミスで時給が下がった。
そんな職場だと諦めて、自分は辞表を提出してしまったが、こうしたことがまかり
通るのはよくない」。そう語気を強めていた。
 道によると、道内の2010年の非正規労働者数は79万人と、5年前に比べ約1
割増加。役員を除く労働者のうち非正規が占める割合は37・4%(10年)と、職場
の3人に1人以上がパートや期間雇用社員だ。
 「雇用の調整弁」にされ景気の浮沈に左右される非正規労働者。08年秋のリーマ
ンショック以降、製造業では派遣労働者の雇い止めが起き、昨年の東日本大震災後
は多くの非正規労働者が仕事を失った。
 
札幌市内の弁護士事務所で労働審判申し立ての打ち合わせをする、
郵便事業会社厚別支店で期間雇用社員として働いていた男性(手前)
賃金格差の■穴埋めを要求 

  こうした中、かつて正社員中心に組織されていた労働組合が、側面支援にとどま
らず、非正規労働者そのものを組織に取り込む動きが広がっている。
 道雇用労政課によると、道内の組合員数に占める11年の非正規労働者の割合は1
8・2%(6万4200人)と、06年の9・8%(3万6100人)に比べ、約2
倍に伸びた。同じ職場にいながら待遇の達う職貞がいることに疑問を感じ、「非正
規の雇用改善を求める組合が増えている」(連合北海道)のだ。
 特別養護老人ホームやディサービスを運営する社会福祉法人大友恵愛会(札幌市
東区)。ここの職員約120人で構成する「札幌地域労組大友恵愛園支部」(平川
貴敏支部長)は、かつて法人側が示す賃金カットに反発し、ストライキをするなど
積極的に活動してきた。
 理事長の交代を機に、2年前からパートや臨時職員を積極的に組合に呼び込んだ
。「職場の半数以上が、パートや臨時職員。同じ仕事なのに賃金格差があり、正職
員との穴埋めをしたかった」(平川支部長)。
 これまでに、国が介護職員の給与水準維持のために支給した交付金を非正規に手
厚くしたり、以前は正職員にしか認められていなかった慶弔休暇を非正規にも適用
するよう要求。「介護職は仕事が大変な割に低賃金。こうした状況を組合で少しで
も変えることで、福祉の向上にもつなげたい」。平川支部長が力を込める。
 また、千歳相互観光バスの運転手らでつくる「札幌地域労組千歳相互バス支部」
は10年秋に発足、今年は契約社員の通勤手当を支給するよう会社側に要求する方針
だ。
 労働問題に詳しい北海学園大経済学部の川村雅則准教授は「非正規労働者の問題
を放置すれば、正社員の発言力や労働条件の低下にもつながりかねない」と指摘。
その上で、「正規と非正規の処遇をすぐに均等させるのは難しくても、燃料手当の
支給や昇給を求めるなど、非正規を正規の条件に近づけることが大切」と話してい
る。
 
非正規の処遇改善について話す大友意愛園支部の平川貴敏支部長(左)と佐藤正剛副支部長

1人でも加入地域労組の存在感
 低賃金で不安定な非正規雇用が広がる中、雇用形態に関係なく、1人でも加入で
きる地域労組の存在感も高まっている。
 札幌地区労連・ローカルユニオン「結」は2005年の結成当初は20人ほどの組合員
数だったが、今では500人が頼りにする。札幌中心部のコールセンターで働くア
ルバイト男性(25)もその1人。昨年の東日本大震災直後に自宅待機を命じられ、
「辞めるか働く時間を減らすか」と迫られた。
 男性はすぐに「結」に掛け合い、団体交渉を申し入れた。会社側と4回交渉し、
従来通りの就労日数の確保やノルマの達成度合いによる時給の引き下げを行わない
など、成果を得た。
 男性は「『アルバイトってそんなもの』と、何十人もの仲間が文句も言わず、辞
めてしまった」と悔しがる。
 昨年1月に発足した「ユニオンくしろ」には17人が加盟している。このうち3
分2は非正規労働者で、不当解雇や賃金カットなどの相談が目立つという。
 苫小牧ローカルユニオンには約40人が加盟。昨年は不当解雇など25件の相談
を受けており、担当者は「従業貞を簡単に辞めさせ、人を人として見ていない風潮
を感じている」と話している。
 
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